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事務局コラム [2023.03]  不正競争防止法令和5年度改正について

「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が2023年3月10日(金)に閣議決定され、現在開会中の通常国会に提出されました。今回の改正案の柱は次の3点とされています。

  • デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化

  • コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備

  • 国際的な事業展開に関する制度整備

法律案、改正理由、条文等の詳細については、経済産業省のWebサイトで情報公開されていますので、こちらもご参照ください。

​営業秘密、限定提供データに関しては、「デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえた保護強化」の一環としての営業秘密、限定提供データの保護強化、「国際的な事業展開に関する制度整備」の一環としての国際的な営業秘密侵害事案における準拠法と裁判管轄について改正が加えられています。これらの改正につき、弊研究会の松本弁護士(橋口・松本法律事務所)/菅弁護士(ベーカー&マッケンジー法律事務所)が、見込まれる効果と実務上の要点を解説しますので、ご参考にしていただければと存じます。

【営業秘密・限定提供データの保護の強化】

デジタル社会に伴い事業活動が多様化する中で、営業秘密・限定提供データに係る不正競争を規律する不正競争防止法は、技術のみならずデータ・ノウハウをも含む幅広い「情報財」を保護することを可能としております。そして、企業の扱う「情報財」自体も多様化しており、営業秘密・限定提供データの保護を通じて不競法の担う役割は益々大きくなってきております。
また、限定提供データに関する制度を導入する改正不正競争防止法が施行されたのは2019年7月1日であるところ、国会の附帯決議において施行後3年を目途に見直しが予定されており、限定提供データ制度全体について、実務上の問題点等が産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止法小委員会において議論されてきたところです。
そこで、今回、営業秘密・限定提供データの保護の強化の観点から、不正競争防止法等の関連条項が以下の通り改正されました。

  • 限定提供データの定義を改正し、ビッグデータを他社に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含めて限定提供データとして保護し、侵害行為の差止請求等を可能とします(不競法第2条第7項)。

  • 営業秘密侵害行為に対する損害賠償請求訴訟において被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として損害賠償請求をすることを可能とします(不競法第5条第1項)。

  • 特許法、実用新案法および意匠法について、一定の場合に特許権者の意思によらず他者に実施権を認める裁定手続において、提出書類に営業秘密が記載された場合に閲覧制限を可能にします(特許法第186条等)。
     

一点目については、不正競争防止法小委員会における限定提供データの規律の見直しに関する議論の中で課題が指摘されていました。現行法では、「秘密として管理されている」データは限定提供データから除外されていますが、改正法では、「秘密として管理されている」ことにより限定提供データから除外されることはありません。改正後においては、企業において秘密として管理しているデータについて、営業秘密として保護するのか、あるいは限定提供データとして保護するのかを選択できるようになります。このため、限定提供データの保護制度をより柔軟に実務上活用できるようになるものと考えております。
二点目については、特許法第102条と類似の内容となっており、被侵害者の生産能力等を超える損害分についても、使用許諾料相当額は損害額と推定できることになりました。これにより、損害額の推定に関して、営業秘密保有者に対して一層の保護が及ぶこととなります。
三点目については、裁定手続において営業秘密が漏洩することを可及的に防止するための改正です。

 

【国際的な営業秘密侵害事案における準拠法と裁判管轄】

国際的な営業秘密侵害事案について、日本の不正競争防止法が適用されるか否か、あるいは日本の裁判所において営業秘密侵害に基づく差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を提起できるか否かについては、これまで不正競争防止法に明文の規定はなく、法の適用に関する通則法や民事訴訟法の解釈により導かれてきました。これらの点については、管轄や準拠法に関する当事者の予見可能性を確保すべきであるという指摘があり、また政策的観点から営業秘密についてより強い保護が必要なのではないか、という意見もあるところです。そこで、今回の改正により、国際的な営業秘密侵害事案について、不正競争防止法第19条の2及び第19条の3が新設されました。

  • 不正競争防止法について、日本国内において事業を行う者の有する営業秘密であって、日本国内において管理されているものについては、国外において営業秘密に係る侵害行為が発生した場合にも、日本の裁判所に訴訟を提起することができ、日本の不競法を適用することになります。

  • 但し、当該営業秘密が、専ら日本国外において事業の用に供されるものである場合は、この限りではありません。

今回の改正は、証拠収集活動も含めた訴訟戦略上、海外での訴訟提起の可能性を妨げないよう、いわゆる競合的な管轄を日本の裁判所に認めております。また、準拠法について、日本の不正競争防止法による営業秘密の保護が及ぶ場合を明確化しました。すなわち、日本企業の保有する営業秘密について、海外において侵害行為が発生したとしても、日本国内の裁判所において日本法に基づいて訴訟を提起することが原則として可能になっております。
一方、かかる保護を適切な範囲にするために、「日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密であって、日本国内において管理されているもの」に限定し、かつ「専ら日本国外において事業の用に供される場合」は除外されています。

 

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