事務局コラム [2025.06] 技術情報管理認証制度の動向
技術情報管理認証制度は、企業の技術情報のセキュリティ対策について、国の認定を受けた認証機関が国の定めた基準(認証基準)に従って審査し、認証する制度です。今年5月に本制度の技術情報管理自己チェックリストが改定されました。このチェックリストは、事業者が自社の情報セキュリティ対策の状況を自ら確認し、必要な対策を把握するためのツールとして提供されています。このツールでは、20項目で必要最小限度の事項を確認することができます。チェック項目が絞り込まれており、技術情報のセキュリティ対策に不慣れな事業者、特に中小の事業者にとって有効なツールです。本制度は、中小企業の技術情報の漏洩を防止する目的で創設され、認証に加えて、対策が不十分な事業者の底上げも狙っています。チェックリストを生かして対策を整備した事業者が、認証取得に至ることが期待されます。
チェックリストの改定は、2024年に行われた認証基準の改定を反映したものです。改定に際して、自動車工業会及び自動車部品工業会の自動車産業サイバーセキュリティガイドライン(レベル1項目)と同期がとれるような配慮がなされています。自動車産業ではサプライチェーンを狙った攻撃の被害を受けて、2020年に業界としてのガイドラインを公開し、会員にその順守を求めています。この動きが他の産業界にも波及し、わが国全体が強靭なサプライチェーンを構築できるように、認証制度が活用されることが望まれます。
当初、経済産業省の製造産業局、そして貿易経済協力局貿易管理部が本制度の担当をしていましたが、現在は貿易経済安全保障局技術調査・流出対策室の担当となっています。これは、経済安全保障への取り組みが本格化したことを反映したものです。経済安全保障の一環として、わが国の技術情報の流出を防止するために、特に、サプライチェーンを形成する中小事業者の技術情報の適切な管理を促進する役割も担っているのです。
認証取得状況について、経済産業省の公開している認証取得事業者一覧によると、51事業者(掲載同意分)となっています。認証取得年度の内訳は2020年度15事業者、2021年度12業者と、制度開始から2カ年度で過半数を占めます。2024年度には10事業者と3年ぶりに二桁を記録しており、認証基準改定の効果があったものと思われますので、今後の増加も期待ができます。ただ、日本の中小事業者は、企業数約175万社、個人事業者約162万人、合計約336万者(2021年総務省)です。うち、製造業の約33万5千者が主な対象ですが、現時点の認証事業者はその0.015%にすぎません。中小企業における重要情報管理を向上させるために大変有意義な本制度の普及を、如何に加速させていくかが課題だといえましょう。
普及の観点として、業界団体に注目することも一案です。本制度では認証業務を実施するための方法(技術等情報漏えい防止措置認証業務の実施の方法)が定められており、その方法に沿って実施できる体制が整っていれば、業界団体でも認証機関に認定されます。現在8社の認証機関には、一般社団法人日本金型工業会及び一般社団法人日本金属プレス工業協会が含まれており、金型工業会の組合員は初期の認証取得事業者の大部分を占めています。わが国のサプライチェーンを支える重要技術をもつ業界団体が更に参加することは、普及の加速に有効だと考えられます。